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特殊相対論とリーマン幾何学;一般ローレンツ変換の視点から

 特殊相対論は慣性系間の座標変換をローレンツ変換に取ると述べた。前の議論では慣性系Sのx軸正方向に慣性系S'が速さvで等速直線運動している場合のS→S'のローレンツ変換を紹介した。

 

 ここでようやく一般のローレンツ変換の定義、あるいはローレンツ変換を特徴づける性質を述べる。

 

 まず、1つの慣性系を選びこれをS\( (x, y, z, t) \)とおく。(ニュートン力学慣性の法則により、少なくとも1つは慣性系が存在する。慣性系に対して等速直線運動する座標系は全て慣性系なので、結局慣性系は無数に存在する。)別の慣性系S'\( (x', y', z', t') \)を考えると、S→S'の座標変換、つまりローレンツ変換がある。この時、ローレンツ変換は、次のように特徴付けられる:慣性座標系Sにおける二次形式\( x^2 + y^2 + z^2 -c^2 t^2 \)を不変に保つ線形座標変換。i.e.

 

\[ x^2 + y^2 + z^2 - c^2 t^2 = x'^2 + y'^2 + z'^2 - c^2 t'^2 \]

 

ローレンツ変換のこの特徴付けは、アインシュタインが特殊相対論の基本原理として提案した「光速度不変の原理」から来ている。)最初に挙げた特殊な場合のローレンツ変換が、実際に二次形式を不変に保つことは簡単な計算により示すことができる。

 

 さて、ローレンツ変換が二次形式\( x^2 + y^2 + z^2 -c^2 t^2 \)を保存するので、慣性座標系の間では測定値(x, y, z, t)に対して量\( x^2 + y^2 + z^2 -c^2 t^2 \)は絶対的な意味を持つ。特殊相対論においては時間の流れる速さ、長さ、同時性の概念が絶対的な意味を失い座標系に依存する相対的な量(概念)となってしまったのだが、それでもなお、任意の慣性座標系においてこの量は不変というわけだ。

 

  そこで特殊相対論においては、外部環境のモデル化の試みとしての時空(詳しい議論は空間とはなにかでしている)の無限小近接した二点の間の距離、すなわち時空の計量は慣性座標系S\( (x, y, z, t) \)を用いて

 

\[ ds^2 = dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2 \]

 

で定義するのが自然である。ただし単位系としてc=1となるようなものを選択している。(符号が変わっているのは便宜的なものである。物質粒子は光速度cを超えることがないので、こう定義しておけば\( ds^2 \)は物質粒子が専有する時空点については常に正となる。)この計量をミンコフスキー計量と呼ぶ。ただし、特殊相対論ではリーマン幾何学による時空の概念を積極的に用いる必要性はあまり無いように思われる。一方、一般相対論では時空概念が非常に役に立つし、等価原理を通してミンコフスキー計量が関係してくる。

 

 注意を述べる。

  • 特殊相対論の適応範囲は慣性座標系までである。つまり特殊相対論は、非慣性系を扱うことを想定していない。*1
  • 特殊相対論においては時空は平坦であると考えられている。(時空が平坦とか、曲がっているとかいう概念については、リーマン幾何学の部分で詳しく取り上げるつもりである。)

*1:なぜ特殊相対論が非慣性系を扱うことが出来ないのかについて、筆者はうまい説明を知らない。もしかしたら非慣性系も扱えるのかもしれないが、無理して特殊相対論を用いなくても、非慣性系を含む一般の座標系を適応範囲とする一般相対論が既にあるのだから、それを使えば良いじゃないかという考え方もある。