Enrich Human Knowledge

人類全体の知識向上を目指して

双子のパラドックスの解決

 条件:慣性系S, S'(便宜的にSには弟が、S'には兄が付いているとする。ただし兄弟の年齢は等しいとする。)があり、S'はSからみてx軸正方向に一定の早さvで運動している。

 SからS'の原点に置かれている時計を見ると、その進みはSの原点に置かれている時計よりも遅い。一方で、S'から見ると、同じ論法によりSに置かれている時計のほうが自分が持っている時計より進みが遅い。これは矛盾ではないのか? (注意:これは以下で議論しようとする双子のパラドックスとは違う。)

 結論から言うと、S, S'のどちらが主張していることも正しい。以下、このことを詳しく説明する。

 まず、認識しなければならない重要な点は、距離の離れた2つの事象が同時に起きたとか、一方の方が他方よりも先に起きたとかいうこと、つまり事象の同時性の概念は座標系に依存する相対的なものであるということである。

 このことは簡単な思考実験で明らかにできる:今2つの爆弾A, Bがある距離だけ離れて置かれているとする。今、爆弾を結ぶ線分の中点に静止している観測者Cから見ると、爆弾が同時に爆発して見えたとしよう。この時、別の観測者Sは爆弾Aに向かって等速に進んでいるとしよう。すると、Sは爆弾Aの方がBよりも早く爆発したと主張する。このことは簡単に理解できる。というのはSは爆弾Aに向かって進んでいるので、Aが爆発したという信号(光)をBのそれより先にキャッチするからである。

 同じ議論はS'というBに向かって進む観測者についても適応可能で、S'は爆弾Bの方が先に爆発したと主張する。3つの慣性座標系それぞれの主張はどれも正しいのであって、どれが特別優れているということを原理的に言うことは出来ない。なぜなら慣性座標系はどれも同等であるから。

 さて、上の双子の例に戻ることにする。弟から見ると兄が自分から等速に遠ざかってゆくように見える。(もちろん、その主張は正当である。)したがってローレンツ変換によって兄の方が自分よりもゆっくり歳を取ることになる。一方で兄から見れば弟のほうがゆっくり歳を取るように見える。上の爆弾の議論と同様に、この2つの主張には優劣がない。つまりどちらも正しい。

 年齢ではなく、また爆弾で考えてみよう。ただし爆弾は埋め込まれた時計で10秒経つと爆発するとする。弟から見ると、兄の爆弾の時計のほうがゆっくり進むので、爆発するのはまず自分の爆弾であり、兄の爆弾はそのあと爆発する。もちろん、兄はその逆の順序を主張する。

 さて、どちらの爆弾が先に爆発したかを絶対的に決めることができるだろうか? そう、これは上で議論したように、不可能なのである。離れた地点で起きた事象、今の場合は兄弟の爆弾の爆発という事象の起きた順序関係について絶対的な議論をすることはできない。

 これを元の年齢という話に置き換えて言えば、例えばどちらが先に30歳に到達したかということを定めることはできない(意味が無い)のである。

 「でも」と考える。離れていった二人を再開させて並べてみれば、どちらが「本当に」歳を取っているのか比較できるのではないか? ここで双子のパラドックスが議論に入ってくることになる。(続く