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双子のパラドックスの解決 その2

 前回からの続き。

 さて、双子が再会するためにはどうすれば良いだろうか? これは双子のパラドックスそのものである。状況を次のように設定しよう:弟は地球にいて、兄はロケットで地球を出発し宇宙を旅してまた地球に帰ってくる。弟から見ると、兄は地球を飛び立つ時に加速度運動を行い、途中は等速で、そして折り返し点でまた加速度運動を行い、再び等速で帰ってきて、最後に加速度運動で減速して地上に帰ってくる。

 このパラドックスを解決するためには、一般相対性理論の枠組みを用いなければならない。

 細かい議論は行わないが、筋書きはこうである:

 弟の視点から見ると、兄はロケットで出発し折り返し点でエンジンを点火し、地球に引き返してくる。運動している兄の時間は遅れている。

 兄の視点から見る。ここが複雑な所である。兄はロケットの方が静止していて、地球に居る弟のほうがまず加速度運動をしたと観測する。折り返し点に達するまで、弟は等速で運動していて、兄は弟の時間が遅れていると観測している。さて、折り返し点に到着してエンジンを点火する。すると今まで無重力状態だった船内には力が生じて、兄は壁に押し付けられるという体験をする。ただ、もちろん、兄はこの間もロケットは静止していて、弟のほうが加速度運動をしていると観測している。一般相対性理論ではこの時ロケットの周囲に一様な重力場が形成されたと解釈する。エンジンを点火したのにロケットが静止したままなのは、その重力場とエンジンの推進力が打ち消し合っているからである。

 さらに、ロケットの周囲に発生した一様な重力場は弟にも作用する。そして、弟が加速度運動をするのは、この重力場の作用のせいだと認識される。つまり、兄の視点からすると、自分も弟もこの一様な重力場の影響下にあるわけだ。

 加速が瞬時に行われたとすると、兄から見て弟は重力場が作用している間はほぼ静止して見える。(この辺りの事情は直感的に考えるよりも数量的に計算したほうが納得できる部分である。計算しよう。)一般相対性理論によれば、重力場内にある時計は遅れることになる。(だからもちろん兄の時計も遅れる。)特に今議論したことから重力場の作用中は両者の時計は静止しているので、時間の遅れについてある近似公式を用いることができる。その近似公式が主張するのは「重力場ニュートンポテンシャルが小さいところの時計は、大きいところにある時計より遅れる」ということである。

 さて、一様な重力場ニュートンポテンシャルは簡単に求められる。するとロケットの位置のニュートンポテンシャルの方が弟の位置のニュートンポテンシャルより小さいことが分かる。(地表付近の一様な重力場で考えても良い。この場合地表に近い物体のほうがポテンシャルは小さい。)したがって、ロケットの時計、つまり兄の時計の方がより遅れることが分かる。

 このことにより、兄が地球に帰還した時には、兄のほうが弟より若くなっているのである。(数量的に計算すれば、どれだけ時間が遅れているのかを算出することができる。)

 注意:加速度運動は計3回行われるが、最初と最後の加速度運動は時間の遅れに寄与しない。というのは、この2つの加速度運動は兄弟が同じ地点にいる時になされるので、この加速度運動に伴う重力場は確かに形成されるが、兄弟の間にポテンシャルの差はない。つまり、二人の時計は確かに遅れるが、遅れは全く同一なので、差が生まれない。