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ミクロとかき乱し

ミクロとかき乱し

 量子力学で記述されるような対象、すなわちミクロな対象は、我々の観測によって状態がかき乱されてしまうようなものである。いや、というよりむしろ、考察している対象がミクロであることを、観測によって状態がかき乱されるということで規定するべきであろう。


例:電子とかき乱し

 ミクロとかき乱しの関係を鮮やかに示す例として、電子を考えてみる。

 電子について二重スリット実験を行うと、観測される電子痕は綺麗な干渉縞を形成する。この実験事実をどう解釈するかが問題である。


粒子説

 素朴に電子が粒子であると仮定してみると、干渉縞が形成されることが説明できない。もし電子が粒子であれば、観測される電子痕は片側のスリットを閉じたスリット1つの場合の電子痕の単純な和になるべきであるからだ。しかし実際にはそうはならない。


波動説

 一方、電子を空間を伝わる波動だと仮定してみよう。すると、今度は電子が観測される際の個別性に矛盾する。電子は常に点として観測され、決してその個別性が失われることがない。しかし、もし電子が波動ならば、次のような思考実験を考えることが出来る:電子を箱のなかに入れておく。すると、電子は波動として箱のなか全体に満ちるだろう。この時、箱の中にすばやく間仕切りを入れると、電子は波動として2つに分割されるはずである。しかし、これは電子観測の個別性に矛盾する。


かき乱しの原理

 もう少し詳しく二重スリット実験を考察することで、かき乱しの原理を導入する。

 電子観測の個別性を利用すれば、各瞬間において電子の位置を観測し、二重スリット実験において電子がどんな軌道を通ったのかを明らかにできるのではと考える。
 しかし、実際に観測してみると、得られる軌道は非常に不規則であり、また、干渉縞が消えてしまう。
 そもそも干渉縞を形成するときの電子の軌道が知りたいのであるが、観測をすると干渉縞が消えてしまう。これは、我々が電子を観測することによって、電子の運動状態がかき乱されてしまい、実験の結果が変化してしまうということだ。しかも、干渉縞を崩さないように、電子の軌道を観測することは、どうやらできないらしい。
 そこで我々は次を原理として仮定する:電子についてのどんな観測も、電子の運動状態をかき乱す。

 観測というのは観測対象に働きかけ、その応答を捉えるという作業である。このかき乱しの原理は、ミクロな対象については観測による働きかけが、その運動状態を不可避に変えてしまうことを主張する。
 一方、マクロな対象については、よく知られているように、観測による運動状態の変化を任意に小さく取ることが出来る。だから、最初に述べたように、このかき乱しの原理がミクロとマクロを区別する本質的な性質なのである。